人と企業に幸せを~ビジョリータ通信 Vol.3

[差別化要素としてのこだわり]

 創業支援を何年かやり、自分で起業をするという経験をしてみると、つくづく感じることがあります。それは、「差別化要因は自分自身のなかにある」ということです。たとえばケーキ屋さんを始めようというとき、他のケーキ屋さんと自分の店は何が違うかを考えます。「お客さんがあなたの店を選んでくれる理由」を考えるわけです。するとマーケティングを習ったことのある人は、お客さんの目線で考え始めます。「子供をターゲットにしたいから、子供が好きな食材を選んで、小さめのサイズにする」とか「親が子供に食べさせて安心できるように材料を吟味する」とかです。

 

 マーケットインの視点に立てばこれは正しいと思います。でも、子供をターゲットにした他のお店と横並びになったら、どこで差別化するのでしょうか。移動の手段が発達して、ネット通販も盛んな昨今、距離が離れているというだけでは競合を避けることはできません。そこで考えたいのが、自分発の価値観の提案、つまり、自分が持っている問題意識やキャラ、個性、特技などを差別化要因のキモにするということです。

 

 差別化要因のなかでも最強なのが「こだわり」だと思います。他人にはよくわからないけど、一つのことを愛し抜いている「こだわり」。つい最近もタバコについてウンチクを語り始めたら止まらない人と会いました。自分が作るパンについて語り始めると止まらない人もいます。その物事に関わっているときが楽しくて楽しくて、時間が経つのも忘れてしまう「こだわり」。

 

 SWOT分析やらマーケティング理論やら、成功事例を後追いで分析した理論は納得感があり、あるところまでは機能すると思います。でも、本当の差別化要因になりうる「こだわり」は理論や理屈では導き出せません。その人の奥深くに根差していたり、独特の経験が裏打ちしていたりして、ともかく「超」が付くほどの俗人的な要素です。

[フローの幸福感]

 最新の幸福研究によると「人は集中しているとき最も幸福感を感じる」のだそうです。やっていることと一体化している人は、退屈とか嫌だとか感じるスキもなく、その物事の中に没入している。アメリカの心理学者、ミハイ・チクセントミハイの言う「フロー」の状態です。ミハイによると、人は「目標が明確で、迅速なフィードバックがあり、そしてスキル[技能]とチャレンジ[挑戦]のバランスが取れたぎりぎりのところで活動しているとき……時の経過と自我の感覚を失う」と言い、この状態を指して「フロー」と呼んでいます。

 

 こだわりが人の魅力を生み、成功を呼ぶ一方で、その人自身に幸福感をももたらしているとしたら、私たちはもっと自分の「こだわり」に「こだわる」ことをやっても良いのだと思います。ところが、真面目な人ほどそうはいかない。他人の期待や用意されたレールに乗ることを優先してしまうからです。そしてその期間が長くなるほど、自分のこだわりや得意なことや嬉しいことが何だったか忘れてしまい、人に問われても、遠い記憶を手繰り寄せてやっと思い出すような有様になっています。

 

 キャリアコンサルタントがよく使うツールに「ライフラインチャート」というものがあります。過去の自分の経歴を洗い出し、過去の年齢の自分に立ち返って、その時に感じたことを思い出してみる。それがプラスの感情だったか、マイナスの感情だったかを思い出しているうちに、自分が何に嬉しさを感じたのか、こだわってきたのかが、再び意識の上にのぼるという塩梅です。人の中身は意外に変わっていないことに気付いて、驚いたりほっとしたりもします。

 普通に働いている人は、外の世界に対応するのに精いっぱいで、なかなか自分の中に深く入っていくことはないのですが、ちょっと時間ができたときに、ライフラインチャートづくり、お試しください。(下はサンプル)


全文はこちらからダウンロードできます。

ダウンロード
ビジョリータ通信Vol.3(20180303).pdf
PDFファイル 770.6 KB