前回、ビジョンは、未来に期待をもって進むためにある、と書きました。そのあと、ひとつ大切なことを思い出しました。それは、ビジョンは未来にある遠くの姿ではなく、いま現在のなかにすでに存在しているということです。ビジョンを「あるべき姿」と言い換えた途端に、現在と切り離されてしまうのですが、そもそもそのビジョンを思い立った人や企業のなかには、そのビジョンに向かう方向性があるわけなので、現在にその片鱗がすでにあると考えたほうが自然です。
以前、クライアント企業の「クレド」をつくるお手伝いをしたことがありました。クレドとは簡単に言うと「ビジョン実現のための行動指針」のようなものです。リッツカールトンの「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」は、すごく有名なクレドですので、ご存知の方も多いと思います。
そのクレド作成プロジェクトでは、クレドの表現を創るところまではスケジュール通りに行っていました。。ところが、その言葉の意図を組織に定着させるところに大きなハードルがあったのです。
このときハードルを超える助けになったのは、クレド的な行動を日常の中から見つけて意味づけるという作業でした。たとえば「仲間とともに助け合う」がクレドの一文にあるとしたら、「仲間と助け合った出来事」を毎日の仕事の中から拾い出して、意識化・言語化したり、周囲と共有したりします。すると、抽象的な言葉であった「クレド」が、周囲にある具体的な出来事にブレークダウンされて、現実感をもって感じることができるようになります。それと近い行動をしたとき、あるいは目撃した時に、「あ、これがクレドの実例だ!」と気が付くようになるわけです。
すでに「クレド」的なものは日常の中に存在していて、それを見つけ出すことで、日常生活の中のクレド的な行動の純度を上げ、「あるべき姿」に無理なく近づいていきましょうね、というやり方です。
日常のなかにすでに理想とするビジョンは存在している。理想を幸福感と置き換えても同じことが言えると思います。目の前にある大切なことを意識化することなく、どうでもいいような心配事にばかり目が行ってしまうこと、ありませんか。毎日家を出るたびに、ガスコンロの火はちゃんと消したか、玄関の鍵は閉めたか、そんな些細なことばかりに気をとられて、今目の前にある大切なことを見落としてしまう。幸福感についても同じで、意図して意識化しようとしないと、なんだかずっと不幸な人生を送っている気分になります。
というわけで今日は幸福感の純度を上げるエクササイズを、「PQ―ポジティブ思考の知能指数」(ショーン・エイカー)からご紹介します。ポイントは日常の中にある幸福を見つけて意識の上に上らせることです。
幸福感を習慣化させる5つの行動
さて、このうち一番簡単そうな「ありがたく思っていることを3つ書き上げる」を2週間やってみました。効果は確実にあると私は思います。というのも、一日の終わりにありがたく思っていることを3つ書き上げるという目的のために、その日にあったありがたい出来事が意識の上にきちんと位置付けられるからです。「書く」ために「意識する」。すると意識に上る「ありがたい」ことの比率が上がっていく、そんなメカニズムがあるようです。
先に書いた「クレド」の例でも、「クレド」に書かれた望ましい行動の例を意識に上らせることで、それに近い行動を意識化する比率が上がります。人の意識のの構成を変えていくことで、行動の傾向や幸福感さえも変わっていくという発見がここにありました。
ハーバードビジネスレビューによると、上の枠内に書かれた5つの行動のうち一つを選び、それを3週間続けると、その影響はずっと続くとされています。その影響とは「幸福感の習慣化」です。さらに言えば、幸福感の高い人ほどビジネスの世界で成功する確率が高いとのこと。と聞くと、このエクササイズ、やってみたくなりませんか?
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