コンサルティングコラム

第16回 スペック採用と組織の同質化

「社内に自己主張が強い人材がいて手を焼いている」。社長や部門長からよく聞く言葉です。続けて、「でも、技術者としては能力が高いので(あるいは、キャリアが長くて、いなくなると困るので)、周囲も機嫌を損ねないよう、腫れ物に触るように扱っている」と。

 

以前、幸福感も業績も業界平均以上というすぐれた中小企業をお訪ねした時のこと。この企業の社長は「組織はある程度、同質化した方がうまくいく」という主旨のことを言われていました。聞くと、過去には、経験や能力を重視したスペック採用をしていたそうです。すると、結果として、協調性が薄かったり、やたらに自己主張をして輪を乱す人が混じったりしたとか。

 

ところがある時から企業理念を明確にし、それを一人一人に浸透させていくことに注力した結果、組織に馴染まない人材が少しずついなくなったというのです。推測するところ、理念が肌に合わず居場所を失って辞めた人、あるいは、自分に求められていることを賢く察知し、方向性を変えた人の2種類がいたのではないかと思います。いずれにせよ結果として、経営理念を軸にした組織の同質性が高まることになりました。

 

私が提唱する「マスアイデンティティ」の状態は、組織全体が理念を軸に同質性を保ちながら、その一方で、一人一人の構成メンバーが自分の個性を安心してさらけ出せる組織です。この状態を実現するためには、理念浸透策と併せて、組織が安全な場所になっていくことが必要です。

 

ベンチャー企業のように右肩上がりで成長基調の企業であれば、理念を口に出さずとも自ずとベクトルは合うものです。また、やるべきことが山ほどある環境下では、それぞれが自分の強みや個性を生かして効率よくこなしていくことが当たり前になります。

 

ところが、ある程度、企業が成長し、成熟段階に至ると、構成メンバーが拠って立つ共通の価値観が薄れてきます。また組織体制が確立したことで、逆に柔軟性を欠くことになり、個性や強みを生かすよりむしろ、既存の枠にあてはめる力が働きがちです。一人一人の強みや個性を活かすということが難しくなり、結果として幸福感が下がります。

 

あるときは企業の躍進に不可欠だった人材のスペックも、時が変われば必要性の強弱が変化します。そのときに組織の新たな局面に適応できるか否かは、スペックよりもむしろ一本筋が通った理念への共感があるかどうかにかかっています。さらにいえば、時々に必要となるスキルとしてのスペックよりさらに深いところにある個々の人の生まれながらの強みや個性に意識を向けることができるかどうかにかかっています。

 

 理念の浸透と個性を活かすということに特別に力を割く必要があるのは、こうした理由からです。