コンサルティングコラム

第14回 「幸福感」と「満足感」の違い

少子高齢化、働き方改革などのトレンドを背に「従業員満足」を高める取り組みがあちこちで見られます。日本の時間あたり労働生産性はOECD加盟35カ国中、20位と決して高くなく、この数値を上げるうえで「従業員満足」を高めることが必須であると。

 

この背景には、満足度の高い従業員は生き生きと創造的に働き、生産性を上げるはずという考え方があります。ではどうすれば満足度が上がるのでしょうか。

 

従業員満足へのアプローチは二つの方向があります。一つはハード的な満足。つまり十分な給料、待遇を与えているかという観点です。ここに面白い調査結果があります。人は年収900万に達するまでは、昇給を非常に喜ぶが、そこを超えるとあまり喜びに感じないというのです。また金銭的な報酬の効果は3日で終わるが、上司に褒められたとか、業績を讃えられたとかの精神的な報酬の効果はもっと長く続く、と。

 

もう一つのアプローチはソフト的な満足です。際たるものは「やりがい」です。「モチベーション3.0」を提唱したアメリカのダニエル・ピンクは、金銭的なものに起因する前時代の動機づけを「モチベーション2.0」と表現し、決められたルールに則ったルーチンワークの職場では大いにうまくいったと言っています。ところが世の中は先行き不透明なVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))と呼ばれる時代に入り、過去に培った経験だけでは、先に進めなくなってしまいました。

 

そこで登場したのが「モチベーション3.0」。従業員の自律性や熟達を重視し、意欲と自主的な力を引き出す働き方です。この次元において、働く人は、自らの目的意識やミッションに則って会社の仕事をすることになります。

 

モチベーション2.0の時代には、自分の感情を抑えて会社の要求する役割を全うすることを求められました。対してモチベーション3.0の時代には、会社の仕事に感情移入できる仕掛けが用意され、自分と会社を分離させることなく、自己の喜びの追求を会社の枠のなかで行えるようになります。

 

ある調査によると、人は「何かに集中している状態」を「幸福」と感じるといいます。アメリカの心理学者チクセントミハイがいう「フロー」の状態と同じです。何かに夢中になって時間が過ぎるのも忘れていた、という経験、誰にでもあると思います。そんな経験が、会社のなかでできるとしたら、人生はだいぶ豊かになります。

 

大学を22歳で卒業し就職した人が、65歳まで働くとしたら、8時間/日×250日/年×44年で合計8万8000時間。睡眠時間(1日約7時間)を除いた同じ期間の時間数が約27万時間ですから、そのうちの30%が仕事の時間です。この時間を、自分を押し殺して過ごし、ルーチンワーク以上の成果を出さずにいるか、逆に自律的かつ創造的に過ごし、会社の継続と繁栄に貢献しつつ、幸福感を感じて過ごすか。どちらが望ましいかは、自明です。

 

「従業員満足」が、経済的な充足や会社の枠の中での自分の力の発揮によってもたらされるとしたら、「従業員の幸福感」は、裁量範囲の広さや、自己決定に基づく行動の成果やそれに対する評価などがもたらす、さらに一回り大きな喜びによって実現するものでしょう。あえて言えば、「従業員満足」が「従業員」という、人の一部分の中の満足であるのに対して、「従業員の幸福感」は「従業員」という側面も内包したその人全体で感じるものです。

 

 

次世代の組織モデルといわれる「ティール組織」を実現するためには、『セルフマネジメント(自主経営)』や『組織の存在目的』と合わせて『ホールネス(全体性)』がカギを握っているといわれます。組織に属する人が、組織から期待されている(と本人が思っている)仮面をかぶることなく、その全体性を安心して出せる場所が確保できることが、幸福感の前提とも言えます。