コンサルティングコラム

第10回 権限委譲の前提条件

社員の意欲を引き出すには、社長やマネジメント層から現場を担当する社員へのある程度の権限移譲が必要と言われます。移譲する権限は、会社の利益に影響を与える方針決定などの高位のものから、事務所掃除の担当順を決めるなどその決定が及ぼす影響がささやかなものまで様々。過去に私が伺った企業では、来年度の年間休日カレンダーを決めるなど社員にとっては重要でも、会社の経営にさほどの影響がないものを選んで決定権を与えていると聞きました。そしてこの種の権限移譲は、社員のモチベーションに関わるメリットが確実にあり、デメリットはほぼないと。

 

これまで経営のかじ取りを担当してきた社長にとって、社員に権限を委譲することには大きな不安が伴います。最大の不安は意思決定の精度、つまり社長がするのと同じ意思決定を社員ができるかどうかということではないでしょうか。年間休日のカレンダーを決めるといったささやかな意思決定であれば、仮に社長が判断した場合とかけ離れていたしたとしても(かけ離れた様子が想像できませんが)、大きな影響はありません。しかし、会社の方向性や顧客対応に関わる選択の場合などは、全社統一の判断基準をあらかじめ作っておく必要があります。

 

この基準となるのが「経営理念」や「ビジョン」といった会社の上流概念です。多くは社長の起業の志や想いなどに紐付いています。ところがこれらの概念が社員にはほとんど響いていないケースが多々あるのです。その理由は明白で、社員にとって「自分とはかけ離れたところにある、別の世界の考え方」だからです。

 

社長が安心して権限移譲するために不可欠な、統一された判断基準としての「経営理念」や「ビジョン」あるいは「ミッションステートメント」と呼ばれる概念。これらを社内に浸透させるためには、社員の経験や個々が持つ価値観とこれらを関連づけるプロセスが必要です。そこから生まれる納得感が会社の考え方との共感を生み出し、統一された判断基準として活用できるようになります。